レーティングは水戸、確率は福岡。2つの物差しが食い違うのはなぜ?
2026年9月5日の福岡対水戸では、レーティングは水戸が上なのに、勝敗確率は福岡が本命でした。少し不思議に見えますが、2つは別々の物差しです。それぞれが見ているものと、水戸でずれた理由をひも解きます。
同じページで、2つの数字が反対を向きました
当サイトの試合ページには、両クラブの「レーティング順位」と、勝ち・引き分け・負けの「勝敗確率」が並んでいます。どちらもクラブの力を表す数字に見えるので、同じ方向を示すと思いますよね。
ところが、2026年9月5日のアビスパ福岡(ホーム)対 水戸ホーリーホックでは、レーティングは水戸が上なのに、勝敗確率では福岡が本命でした。「どちらかが間違っているの?」と感じるかもしれませんが、計算の誤りではありません。2つは別々の物差しで、この試合ではその違いがくっきり表れたのです。
では、2つの物差しはそれぞれ何を見ているのでしょうか。なぜ水戸で食い違ったのか、当サイトのモデルの数字を使ってひとつずつ見ていきます。
2つの物差しは別々に計算している
レーティング:勝ち負けから計算する強さの点数
レーティング順位のもとになっているのは、Eloレーティングという方式の点数です。勝てば上がり、負ければ下がる強さの点数で、格上に勝つと大きく上がります。1試合ごとに、その結果を受けて動きます。
この試合の前の時点で、福岡は1514点、水戸は1584点でした。水戸はJ1の20クラブの中で10位です。
勝敗確率:得点モデルだけから出している
一方、勝敗確率は「得点モデル」だけから計算しています。サッカーの得点分析で標準的な、ディクソン=コールズ型と呼ばれる方法です。
得点モデルは、クラブごとに「攻撃力(どれだけ点を取るか)」と「守備力(どれだけ点を取らせないか)」を別々に見積もります。試合ごとに、こちらの攻撃と相手の守備、相手の攻撃とこちらの守備を組み合わせ、ホームの有利さも加えて、両チームの「見積もった得点」を出します。勝敗確率はそこから計算します。
ここで覚えておきたいのは、Eloレーティングは確率の計算に使っていないことです。休養日、連戦、直近の調子、移動距離も使っていません。過去のデータで検証したところ、これらを足しても確率の精度が上がらなかったためです。ページにレーティングが並んでいても、確率はそれとは別に出ています。
福岡対水戸の中身
攻撃はほぼ同じ、差がついたのは守備
得点モデルが見積もった両クラブの値は次のとおりです。
| 攻撃 | 守備 | 強さ(攻撃+守備) | 強さの順位(63クラブ中) | レーティング(点) | |
|---|---|---|---|---|---|
| 福岡 | +0.094 | +0.171 | +0.264 | 16位 | 1514 |
| 水戸 | +0.115 | −0.066 | +0.049 | 23位 | 1584 |
攻撃と守備の値は、得点数そのものではありません。クラブどうしを比べるための相対的な値で、どちらも大きいほど良い(攻撃なら点を取る、守備なら点を取らせない)ことを表します。見るべきなのは、2つのクラブの差です。
攻撃は福岡が+0.094、水戸が+0.115で、ほぼ同じです。はっきり違うのは守備で、福岡が+0.171、水戸が−0.066です。福岡は守備が堅く、水戸は福岡と比べて守備が緩い、という見積りになっています。
噛み合わせで「この対戦の得点」が決まる
福岡の得点は、福岡の攻撃と水戸の守備の組み合わせで見積もります。水戸の守備が緩いぶん、福岡の得点は伸びます。さらに福岡はホームなので、ホームの有利さのぶんも上乗せされます。
水戸の得点は、水戸の攻撃と福岡の守備の組み合わせです。福岡の守備が堅いぶん、水戸の得点は抑えられます。
その結果、この試合で見積もった得点は、福岡が1.332点、水戸が0.946点になりました。福岡のほうが多く点を取りそうだという見積りなので、勝敗確率でも福岡が本命になります。
ここが「噛み合わせ」の考え方です。攻撃の値だけなら水戸がわずかに上なのに、この対戦で取りそうな点は福岡のほうが多くなっています。点の見積りは、自分の攻撃力だけでなく、相手の守備力との組み合わせで決まるからです。
ただし、確率とレーティングが逆を向いた理由は、噛み合わせだけではありません。表の「強さの順位」を見ると、得点モデルの中でも福岡が16位、水戸が23位で、福岡が上です。つまり2つの物差しは、そもそも水戸をどれくらい強いと見ているかが違っています。
なぜ水戸で2つの物差しがずれたのか
今のJ1で大きくずれているのは水戸だけ
J1のクラブについて、得点モデルの強さの順位とレーティング順位を比べると、大きくずれているのは水戸だけでした。
| クラブ | 得点モデルの順位 | レーティングの順位 | 差 |
|---|---|---|---|
| 水戸 | 19位 | 10位 | 9 |
| 浦和 | 8位 | 12位 | 4 |
| 京都 | 12位 | 16位 | 4 |
| その他のクラブ | 3以下 |
順位はいずれもJ1の20クラブの中での順位です。水戸はレーティングではJ1の中ほどにいますが、得点モデルでは19位です。
得点モデルが見ている試合の大半は、J2にいた頃のもの
得点モデルは、過去約3年分の試合から攻撃と守備を見積もっています。その期間の水戸の試合を数えると、J2が86試合、シーズン移行期の百年構想リーグが20試合、J1が5試合です。
得点モデルが出した水戸の強さ(攻撃+守備)は+0.049です。J2クラブの平均は−0.163、J1クラブの平均は+0.470なので、水戸はJ2の平均のすぐ上にいて、J1の平均からは離れています。得点モデルは、まだ水戸をJ2寄りのクラブとして見ているということです。
なお、得点モデルがJ1とJ2を見分けられていないわけではありません。平均には上のとおり差がついていて、J3の平均は−0.638です。ずれの原因はリーグの区別ではなく、水戸の場合、見積りの材料の大半がJ2での試合だという点にあります。
レーティングは昇格後の試合で先に動いた
レーティングは1試合ごとに上下します。水戸はJ1での5試合で54点上がっていて、J1の20クラブの中では10位です。昇格したあとの結果が、すでに点数に表れています。
得点モデルは約3年分の試合をまとめて見ているので、J1での5試合が加わっても、見積りはまだJ2時代の水準に寄っています。レーティングが先に動き、得点モデルが追いついていない。この試合での食い違いは、その時間差から来ています。
どちらが正しい、という話ではありません
レーティングは勝ち負けを1試合ごとに積み上げる物差しで、得点モデルは約3年分の試合から攻撃と守備を分けて見る物差しです。見ているものが違うので、クラブの状況によっては答えが食い違います。
昇格したばかりのクラブは、得点モデルの材料の多くが前のカテゴリーでの試合になります。そのため、昇格して間もないクラブの確率は、確度を低めに見てください。
昇格クラブの確率が過去に実際とどれくらい合っていたかは、別の記事で検証します。「昇格クラブは低く見積もられがち」と単純に言える結果ではないことだけ、先に書いておきます。
この比較で言えないこと
- 1つの対戦の例です。 福岡対水戸で2つの物差しの違いを説明したもので、ほかの試合の食い違いが同じ理由で起きているとは限りません。
- この試合の結果で、どちらの物差しが良いかは決まりません。 確率は、同じ条件の試合が何度もあったときにどれくらいの割合でそうなるかを表す数字です。1試合の結果だけでは、確率の良し悪しは判断できません。
- 水戸の今の力にどちらが近いかは、ここからは言えません。 得点モデルがJ2寄りに見ていることは分かっても、それが低すぎるのか、レーティングが高すぎるのかは、この比較だけでは判断できません。
- 数字はこの試合の前の時点のものです。 その後の試合で、どちらの値も変わります。
- 比べたのはJ1のクラブだけです。 J2やJ3のクラブに同じようなずれがあるかは、ここでは確かめていません。