「あの選手がいると勝てる」って、本当に数字で言える?
「あの選手が出た試合は勝点が高い」と聞くと、つい納得したくなりますよね。海外組の日本人選手を対象に、会場の違いと偶然のばらつきまで考えて比べてみると、出場した試合としなかった試合に差は確認できませんでした。
「◯◯が出場した試合では、クラブは平均◯勝点。出場しなかった試合では◯勝点」。選手の存在感を伝える場面で、こんな比較を目にすることがあります。数字が並んでいると分かりやすくて、つい説得力を感じますよね。
私たちも、海外組(海外のクラブでプレーする日本人選手)について、この数字を載せられないかと考えました。ところが、公開前にきちんと確かめてみると、出場した試合と出場しなかった試合で、クラブの勝点に差は確認できませんでした。ここからは、その検証を順を追ってご紹介します。
最初の集計には大きな差が出ていた
最初に数字を出したときは、出場した試合のほうが勝点がはっきり高い選手が、表の上のほうに並びました。「やはり主力がいると勝てる」と読みたくなる表です。
ところが、この差は4つのやり方の問題が重なって作られたものでした。
1. カップ戦を混ぜていた
カップ戦は、リーグ戦に比べて対戦相手との実力差が大きく開くことがあり、大差の試合も起きます。それをリーグ戦と同じ「1試合の勝点」として平均すると、選手の出場とは別の理由で数字が動きます。
2. ヨーロッパ以外のリーグや、Jリーグ時代の試合を混ぜていた
選手の出場記録には、移籍する前にプレーしていたJリーグや、ヨーロッパ以外のリーグの試合も残っています。これを含めると、所属クラブもリーグも違う試合が1つの平均に入ります。リーグによってシーズンの区切り方も違います。
3. 最低試合数を決めていなかった
欠場が数試合しかない選手でも、そのまま平均を出していました。試合数が少ない平均は、1つの勝ち負けで大きく上下します。たまたま負けが重なった数試合が「いない時」の数字になれば、それだけで大きな差に見えます。
4. 差の大きい順に並べて、上から読んでいた
とくに大きかったのが、こちらです。大勢でサイコロを何回か振り、出た目の合計が大きい順に並べると、上位の人は「サイコロの名人」に見えます。けれども、もう一度振れば上位の顔ぶれはおそらく入れ替わります。上にいたのは、偶然が大きく出た人だからです。
選手ごとの「いる時といない時の差」も同じです。偶然のぶれを含んだ数字をたくさん集めて大きい順に並べれば、上のほうに大きな差が集まるのは自然な成り行きです。上から読むと、偶然を「選手の効果」と取り違えてしまいます。
ヨーロッパのリーグ戦だけで確かめ直す
そこで、条件を次のように決め直しました。
- 対象はヨーロッパの31のリーグのリーグ戦だけ(カップ戦は含めない)
- 「1人の選手の1シーズン」を1組として数える
- 出場した試合と出場しなかった試合が、それぞれ6試合以上ある組だけを使う
対象の記録は日本人選手120人・延べ3,728試合分で、そのうち53組が基準を満たしました。以下の「勝点」は、所属クラブがその試合で得た勝点の、1試合あたりの平均です。
そのまま比べた差
| 1試合あたりの勝点 | |
|---|---|
| 出場した試合 | 1.398 |
| 出場しなかった試合 | 1.448 |
| 差(出場した − 出場しなかった) | -0.050 |
差は約0.05勝点で、しかも出場しなかった試合のほうがわずかに高いという、「いると勝てる」とは逆の向きでした。出場した試合のほうが高かった組は53組中22組で、半分に届きません。ただし、この逆向きの差にも意味があるとは言えません。理由はこのあと説明します。
ホームとアウェーを揃えた差
主力ほど難しいアウェーの試合に起用される、といった偏りがあれば、この差は「会場の違い」を拾っているだけかもしれません。実際、ホームの試合の割合は、出場した試合で50.7%、出場しなかった試合で48.2%と、少し違っていました。
そこで、ホーム同士、アウェー同士で別々に差を出し、試合数に応じて合わせ直しました。結果は**-0.026勝点**。やはり差はほとんどありません。
偶然だけでどれくらいの差が出るか
では、-0.050という差は「小さい」と言ってよいのでしょうか。それを確かめるのが並べ替え検定です。実際の差を、偶然だけで生まれる差の大きさと比べる方法です。
同じ選手・同じシーズンの同じ試合を、実際に出場したかどうかとは関係なく、ランダムに「出場」と「出場なし」に分け直します。分ける試合数の比は実際と同じです。そのうえで差を計算し、これを2,000回繰り返しました。出場と無関係に分けているので、ここで出る差は偶然だけで生まれたものです。
| 項目 | 勝点の差 |
|---|---|
| ランダムに分けたときの差の平均 | +0.002 |
| ランダムに分けたときの差のばらつきの目安(標準偏差) | 0.066 |
| 2,000回のうち95%が収まった範囲 | -0.126 〜 +0.134 |
| 実際の差 | -0.050 |
標準偏差は、数字が平均からどれくらい離れやすいかを表す目安です。実際の差 -0.050 は、ランダムに分けたときに出る範囲の中に収まっていて、大きさは偶然のばらつきの0.8倍ほど(マイナス方向)です。
ランダムに分けた2,000回のうち、実際と同じかそれ以上の大きさの差(プラスかマイナスかは問わない)が出た割合は0.457、つまり約46%でした。偶然だけでも、この程度の差はごく普通に出るということです。
主力だけに絞っても差は出なかった
「主力なら差が出るはず」と考えるのは自然です。そこで、出場した試合での平均出場時間が70分以上の組だけを見ました。該当は14組です。
差は-0.106勝点でした。先ほどより大きく見えますが、組が少ないぶん平均はぶれやすくなります。平均のぶれの目安(標準誤差)は0.150で、-0.106はその0.7倍ほど。偶然と区別できる大きさではありません。
条件を足すのは、ここで止めた
主力に絞る条件は、「1つだけ試す」と決めていたものです。通らなかったので、ここで止めました。
結果を見ながら「この選手たちだけなら」「この時期を除いたら」と条件を足していくと、53組の中から好きな数字を作れてしまいます。そうして見つけた数字は、結論に合わせて作った数字と区別がつきません。
個々の組を並べてみると
出場・欠場のそれぞれが10試合以上ある組を、差の大きい順と小さい順に並べると、プラスの側にもマイナスの側にも、同じくらいの大きさの差が並びます。出場が本当に勝点を押し上げているなら、プラスの側に偏るはずです。
片側10〜28試合ほどの組では、1組の差が偶然だけでぶれる幅の目安(標準誤差)が0.4〜0.5あります。その2つ分ほどの差は、53組もあれば、どこかの組に出てきて当然の大きさです。
結論:差は確認できない
ヨーロッパのリーグ戦に絞り、会場を揃え、偶然で出る差の大きさと比べると、日本人選手が出場した試合と出場しなかった試合で、所属クラブの勝点に差は確認できませんでした。
そのため当サイトは、「出場した試合では平均◯勝点、いない試合では◯勝点」という数字を、選手ページなどに載せません。
理由はもう1つあります。この数字は、名前のある1人の選手について「この人がいると勝てる」と語ることになります。データが支えていないことを、実在の人の価値として書くことはしない、というのが当サイトの考えです。
この検証で言えないこと
この検証では、対戦相手の強さを揃えていません。当サイトが持つ海外のクラブの記録は日本人選手が所属するクラブの分に限られ、対戦相手の多くは強さを測る材料がないためです。
言えるのは「会場の違いと偶然を差し引くと、差は残らない」というところまでです。相手の強さを揃えれば差が現れる可能性は残ります。ただ、揃える前の段階ですでに偶然の範囲に収まっているので、揃えてから差が出てくるとは考えにくいと見ています。
また、けがや出場停止による欠場が、たまたまクラブの好不調の時期と重なる影響も取り除いていません。この検証は「差がまったくない」と証明したものでもなく、偶然と区別できる差が見つからなかった、ということです。
代わりに載せられる事実
「いる時・いない時」の比較の代わりに扱えるのは、数えただけで、どちらが原因かを言わない事実です。
- 欠場の期間と、その間にクラブが戦った試合数:「◯月◯日以降、出場なし。クラブはその間に◯試合」。欠場とクラブの結果の因果には触れません
- 出場時間・得点・アシスト:記録そのものです。アシストは海外組の選手だけで、Jリーグの公式記録にはアシストの項目がありません
- 直近の出場の推移:「直近◯試合で先発◯」のように、起用の変化をそのまま示します
欠場中のクラブの勝ち負けを並べると、欠場が負けの原因だと読めてしまいます。上の形は、そう読ませないためのものです。