鈴木彩艶が止めた3人目――キリンカップ日本対エクアドル0-0、PK5-4雑感
A代表初先発の谷村海那が絡んだ25分の攻撃と、3人同時交代から4バックへ移った67分。73分の伊東純也のシュートにも得点は生まれなかった。ガジャルド監督の試合後評価とスペイン紙の見方を重ねると、PK戦へ進んだ90分からニュージーランドとの決勝を前に何が見えてくるのか。
鈴木彩艶がエクアドルの3人目のキックに対して左へ跳び、止めた瞬間、私は思わず息を吐きました。うれしい。けれど胸の奥には、90分でゴールを奪えなかったもどかしさも残っていました。
2026年10月1日19時10分、横浜国際総合競技場。キリンカップサッカー2026の準決勝で、日本はエクアドルと90分を0-0で終え、PK戦へ進みました。鈴木が相手の3人目を止め、日本の5人は全員成功。日本が5-4で制し、10月5日の決勝進出を決めました。
最後は大きな拍手を送りたくなる勝ち方でした。でも、流れの中で一点が遠かった時間も消えません。あの解放感にたどり着くまで、日本は何に苦しみ、どう変えようとしたのか。PK戦だけでは見えない90分を、順番にたどっていきます。
5人がつないだPK戦、その前から続いていた準備
このPK戦を分けたのは、鈴木彩艶の一度のセーブと、日本の5人が自分のキックを一つずつ決めた積み重ねでした。止めた鈴木だけでも、最後に決めた前田大然だけでもなく、全員でつないだ5-4だったと思います。
エクアドルで失敗したのは、3人目のデニル・カスティージョでした。残る4人は成功。一方の日本は、上田綺世、鎌田大地、伊藤洋輝、相馬勇紀、前田大然の順に、5人全員がゴールへ沈めました。一人が決めるたびに緊張が次の選手へ渡っていくなかで、その流れを最後まで切らさなかったことが頼もしかったです。
そして、この結果はその場のひらめきだけで生まれたものではありません。森保一監督によると、中村俊輔コーチ、前田遼一コーチ、渡邉秀朗テクニカルスタッフは、相手の特徴を示すデータを集めながらPK戦に備えてきました。中村コーチの助言も、蹴る選手たちの自信につながったといいます。
鈴木自身も、PK戦がある試合かどうかにかかわらず、毎試合相手を調べ、試合中にPKを与えた場合まで考えて準備していると振り返っています。あの一度のセーブの後ろに、普段から続けてきた時間があったのだと思うと、うれしさがあとからじわじわ広がってきました。
次に映像を見返したら、鈴木の横っ跳びだけでなく、キッカーが一人ずつボールへ向かった時間も追うはずです。歓声が収まったところで、時計を90分の始まりへ戻します。
谷村海那の初先発、得点が動かなかった前半
前半の45分は、A代表で初めて先発した谷村海那に可能性を感じる場面がありながら、エクアドルの守りを体で受けながらプレーする難しさも詰まった時間でした。一度の先発だけで、成功か失敗かの点数をつけたくない。私はそんな45分だったと感じています。
日本は3-4-2-1という並びで試合を始めました。守りの選手が3人、中盤が4人、その前に2人、最前線に谷村が1人という形です。鈴木彩艶の前に瀬古歩夢、板倉滉、伊藤洋輝の3人。中央には佐野海舟と田中碧、左右には堂安律と中村敬斗が入りました。最前線の谷村の後ろには、久保建英と鈴木唯人が並びます。「シャドー」と呼ばれる、前の選手を支えながら自分でもゴールを狙う位置です。
横浜F・マリノスに所属する谷村は、この試合がA代表での初先発でした。25分には、田中から届いたボールを谷村が鈴木唯人へ落とし、中央からのシュートにつなげました。派手な突破ではありませんが、味方を生かす短い連係に谷村らしさが見えた気がして、私はちょっとうれしくなりました。30分過ぎにも、中村のクロスに合わせてシュートを放ちました。こちらはオフサイドとなりましたが、ゴール前へ入っていく姿は残りました。
ただ、谷村本人は試合後、縦から届くパスや長いボールを受けるとき、相手を背負うだけでは難しかったと振り返っています。相手を背負うとは、ゴールに背を向け、すぐ後ろにいる守備の選手と競りながらボールを収めることです。谷村は前半終了で交代し、悔しさを口にしました。
谷村が口にした悔しさは、こちらが評価を決めるより先に、本人が次の課題を見つけていることを教えてくれました。次に長いボールを受けたとき、どんな体の向きで味方へつなぐのか。その答えは、次のプレーに表れるはずです。
67分、3バックから4バックへ
3バックから4バックへの変化と左右に広がる攻撃を表したイメージ。AI生成イラスト(実際の試合場面ではありません)。
67分、日本は最後尾を3人で守る形から、4人で守る形へ変えました。その6分後、左の中村敬斗から右の伊東純也へ大きくボールが渡り、伊東がシュート。ピッチを横いっぱいに使う広がりが見えた一方で、スコアを動かす一手にはなりませんでした。
時間を少し戻すと、日本は後半開始から谷村海那に代えて上田綺世を入れています。そして67分、堂安律、久保建英、鈴木唯人に代わり、伊東純也、鎌田大地、鈴木淳之介が入りました。一度に3人を替えたこの場面で、日本は「3バック」から「4バック」へ移ったとJFAは記しています。
変化が形になって見えたのが73分でした。左サイドの中村が上げたボールを、反対側の右サイドで伊東が受け、そのままシュートまで運びました。左から右へ大きく展開された瞬間、エクアドルの守りが横へ動き、日本が使える場所も広がったように見えました。見ていた私も「ここから来るかも」と、少し身を乗り出した場面です。
その後、日本は79分に前田大然と相馬勇紀、86分には塩貝健人を送り出しました。それでも、90分が終わるまで得点は生まれませんでした。
73分のシュートには、形を変えたことで攻撃の幅が出た手応えを感じました。私の引っかかりは、次の試合で確かめたい一点に変わっています。あの形から、今度は誰がゴール前へ入るのか。そこに目を凝らしたいです。
ガジャルドが見た日本の土台と、スペイン紙の辛口な視線
海外から届いた見方は、日本への一方的な称賛ではありませんでした。チームが時間をかけて作ってきた土台を認めながら、エクアドルが日本をやりにくくしたことや、攻撃への厳しい評価も含まれています。同じ90分でも、立つ場所によって見え方は少しずつ違っていました。
エクアドルのマルセロ・ガジャルド監督は試合後、日本にはしっかりした土台があり、欧州のトップクラスでプレーする選手もそろっていると評価しました。長い時間をかけ、選手がなめらかに動きながら試合を進められるチームになったとも話しています。ただし、試合自体は互角で、エクアドルも日本を困らせたという手応えを示しました。
Nosotros creo que los incomodamos bastante en ese juego fluido que ellos tienen (訳)日本が持つ流れるようなプレーを、私たちはかなりやりづらくさせたと思う。
— マルセロ・ガジャルド監督、El Comercio(2026年10月2日)
日本を評価するだけで終わらず、自分たちも日本のよさを出させなかったと振り返っているところに、私はうなずきました。前半は日本だけが思いどおりに進めていたようには見えませんでした。その窮屈さを、相手監督の側から説明してくれた言葉に感じます。
スペイン紙『AS』は、また少し違う角度から日本を見ていました。
Japón, en casa y ante su público, demostró una idea más clara de lo que es. (訳)日本はホームで観衆を前に、自分たちらしさをより明確に示した。
— AS(2026年10月1日)
チームとして何をしたいのかが見えた、という評価は興味深かったです。同じ記事は日本の守備が落ち着いていた一方、攻撃には物足りなさがあったとも書いています。この攻撃評にはうなずきましたが、先発した久保建英がほとんど存在感を示せなかったという個人評には「そこまで一人に寄せて見るのかな」と、少し首をかしげました。私には久保だけでなく、日本の前線全体が窮屈そうに見えたからです。この試合の感触に近かったのは、ガジャルド監督の「かなりやりづらくさせた」という言葉のほうでした。
0-0の先、国立で見たい二つのつながり
決勝で私が見たいのは、エクアドル戦の25分に中央で生まれた連係と、73分に左から右へ渡った攻撃が、国立ではもう一歩先まで続く場面です。同じ形の再現ではなく、その先で誰がゴール前へ入り、誰が最後のシュートを打つのかを楽しみにしています。
日本は2026年10月5日19時30分、国立競技場でニュージーランドとのキリンカップ決勝に臨みます。森保一監督はエクアドル戦について、強さと技術のある相手と戦ったことで、できたことと、さらに良くする必要がある部分を確認できたと振り返りました。PK戦も、今後へ向けた経験になったと話しています。
私がもう一度見たい一つ目は、25分の田中碧、谷村海那、鈴木唯人のつながりです。田中からのボールを谷村が落とし、鈴木唯人が狙った。短いパスが中央で続いたからこそ、守る側が向きを変える前にシュートへ進めました。決勝では、その動きにもう一人が加わるのか、それとも打った後のこぼれ球まで誰かが追うのか。続きが気になります。
二つ目は、73分に中村敬斗から伊東純也へ渡り、シュートまで進んだ攻撃です。次は受けた選手がそのまま打つだけでなく、中央へ走り込む味方とどうつながるのか。パスを選ぶのか、味方がこぼれ球へ入るのか、その続きに期待しています。
国立で私が最初に目を凝らしたいのは、シュートを打つ選手の一歩手前です。中央で短いパスを受ける人か、反対側からのボールに合わせて走り込む人か。その姿が見えた瞬間、私は少し早く立ち上がってしまうかもしれません。今度こそ、最後の一歩まで見届けたいです。