86分の西尾葉音、大場朱羽が止めた3人目――なでしこ対北朝鮮2-2(PK5-3)、アジア大会3連覇の夜
準決勝から先発を2人入れ替えて迎えた北朝鮮とのアジア大会決勝。6,243人の前で、5試合26得点無失点でたどり着いたチームは、後半に今大会初失点を喫し、90分で決着しない夜へ踏み込んだ。初めて追う展開の中で、交代と配置変更は試合をどこへ運んだのか。
86分、西尾葉音の同点ゴールで日本は2-2に追いついた。それでも試合は終わらない。延長戦の30分、そしてPK戦で北朝鮮の3人目を待つ大場朱羽。大場が左へ跳ぶまで、息をつめる時間が続いた。先制、逆転、同点、そしてPK戦。気持ちが何度も振り回された一戦を振り返る。
2026年10月2日、第20回アジア競技大会の女子サッカー決勝が、小笠山総合運動公園エコパスタジアムで行われた。観客は6,243人。日本は32分に上野真実が先制したが、その後1-2とされ、西尾の得点で追いついた。120分を2-2で終え、PK戦は5-3。3連覇の表彰台より先に私の頭へ浮かぶのは、西尾が振り向いた瞬間と、キックを待つ大場の立ち姿だ。うれしいのに怖い。試合が終わって、やっと安堵が追いついた。
32分の先制、47分と69分に変わった景色
上野真実が先制した決勝は、後半に北朝鮮に逆転された。前の5試合ではなかった苦しさが、ここで初めて訪れた。
準決勝の韓国戦から変わった先発は2人だった。後藤若葉と宝田沙織に代わり、大箸桜子と柳瀬楓菜が入り、大箸は今大会初先発。並びは、守備に4人、中盤に3人、攻撃に3人を置く4-3-3だった。GKは大場朱羽。守備には浜田芽来、伊東珠梨、大箸、桑原藍の4人が入った。中盤は、守備陣の前に上野、その前方に柳瀬と塩越柚歩。いちばん前には成宮唯、神谷千菜、中嶋淑乃が並んだ。
32分、その配置から先制点が生まれた。左で桑原から中嶋、柳瀬へとボールが渡り、柳瀬がゴール前へ送る。塩越のシュートは相手に当たったが、こぼれ球へ上野が迷わず足を振った。ボールはゴール左下へ。きれいにつないだ攻撃が一度止められても終わらない。その姿に、決勝の緊張に押されず、自分たちから試合を動かそうとする強い気持ちを感じた。
ところが、後半は北朝鮮が反撃した。47分の同点弾は日本が今大会で初めて許した失点。69分には逆転され、初めて追いかける展開になった。
日本はタイに8-0、ベトナムに8-0、チャイニーズ・タイペイに4-0、フィリピンに4-0、韓国に2-0。決勝前の5試合で26得点を挙げ、失点はなかった。
けれど、あの数字は同点を許してから安心材料にはならなかった。北朝鮮にボールを日本側へ運ばれるたび、金メダルが少しずつ遠ざかるように見えた。上野の先制で少し軽くなった胸が、逆転後にはずしんと重くなった。
75分投入、西尾葉音は86分に振り向いた
西尾葉音は75分に入ると、その11分後に同点ゴールを決めた。自分の得意な形へ持ち込んだ一撃で、終わりかけていた試合を延長戦へつないだ。
日本は1-2となった後、攻撃する選手を次々と入れ替えた。63分に中嶋淑乃から生田七彩へ交代。75分には柳瀬楓菜に代わって西尾、神谷千菜に代わって水野蕗奈が入った。さらに81分、成宮唯から宝田沙織、上野真実から瀬野有希へ交代した。狩野倫久監督は浜田芽来を前方へ動かす配置変更も行った。
そして86分、水野からのパスが右側へ入る。受けた西尾はペナルティーエリア右へ持ち出し、体の向きを変えて右足でシュート。ボールをゴール左下へ流し込み、2-2とした。
試合後の西尾によると、1点を追う場面でピッチに入り、自分が試合を決めようという気持ちだったという。得点場面では前にいた塩越柚歩へ、ボールに触れず自分まで通してほしいという意味で「スルー」と声をかけた。そこから得意だというターンでシュートへ。少しボールが足元から離れても、相手GKを見ながら落ち着いて決めたと振り返っている。
ここで胸が熱くなったのは、ただ急いで蹴ったゴールではなかったからだ。塩越に声をかけ、振り向き、GKを見てから狙う。残り時間が少ない中でも、西尾は自分の得意な順序を崩さなかったように見えた。途中出場の短い時間で、その形まで持ち込んだ落ち着きが頼もしかった。
120分を越えて、PK戦で待った数秒
西尾葉音の同点ゴールで追いついても試合は終わらず、90分までの残りを戦った先に延長の30分が待っていた。その延長戦を無失点でしのぎ、PK戦では大場朱羽が北朝鮮の3人目を止めた。先攻の日本は5人全員が成功した。
2-2で90分を終えると、試合は前半15分、後半15分の延長戦へ入った。北朝鮮の攻撃が続く中、伊東珠梨は味方の後ろへ回って危ない場面を防ぎ、塩越柚歩も守備の一番後ろまで戻った。両チームとも得点はなく、勝負はPK戦へ持ち越された。
日本の1人目は宝田沙織。そこから全員がキックを成功させていく。大場は北朝鮮の3人目をセーブし、日本が一歩前へ出た。最後は5人目の塩越が決め、PK戦は5-3で終わった。
Goalkeeper Shu Ohba was the hero as Japan retained the gold medal in the women’s football final. (訳)女子サッカー決勝で日本が金メダルを守るなか、GK大場朱羽が主役だった。
— OCA Media(2026年10月2日)
OCAが大場を「主役」と表したことには、私も素直にうなずいた。けれど、大場一人だけの場面にはしたくない。120分を守った選手たちがいて、重い空気の中で5人がそれぞれのキックを決めたからこそ、大場のセーブが勝利へつながったのだと思う。
大場はスコットランドのレンジャーズFCでプレーしている。遠く離れたクラブで積み重ねてきた時間も思い浮かんだが、この夜にいちばん心へ残ったのは、セーブした瞬間だけではなかった。最後のキックが決まり、仲間たちが大場へ駆け出すまでの数秒。張り詰めていたものが一気にほどけていくようで、私もそこでようやく息をつけた。
3連覇を、23人それぞれの次へ
代表で共有した達成感と、異なる日常へ戻る歩みを対比したイメージ。AI生成イラスト(実際の試合場面ではありません)。
3大会連続、通算4度目の金メダルは、このチームの終着点ではない。大会後、それぞれの持ち場へ戻る23人を、改めて見つめたくなる始まりになった。
日本は大会の全6試合で28得点を挙げ、失点は決勝の2点だけだった。そして北朝鮮との決勝を経て、アジア競技大会女子サッカーで3大会連続の優勝を達成した。通算では4度目の金メダルとなる。
登録された23人のうち、21人はWEリーグのクラブに所属している。ほかは東洋大の大箸桜子と、スコットランド組の大場朱羽。それぞれ違う場所から集まった選手たちは、大会が終われば、また自分の日常へ戻っていく。
狩野倫久監督は、選手たちがWEリーグの価値を上げたいという思いを持っていたと振り返った。その思いを、成長しながらプレーで示してくれたとも語っている。成宮唯も、WEリーグの価値を示したいという気持ちで大会に臨んだと話した。金メダルという結果だけでなく、普段のクラブで積み重ねてきたものを代表の舞台へ持ち寄った大会でもあったのだと感じた。
だから私は、今回の優勝を「選手層が厚い」の一言だけで終わらせたくない。32分に決めた上野真実、86分に追いついた西尾葉音、PKを止めた大場。そして120分をつないだ一人ひとりの名前を覚えておきたい。
次に選手たちを見かけるときは、代表とは違うユニホームを着ている。まずはWEリーグの試合で、上野や西尾、成宮の名前を先発メンバー表から探したい。金メダルを持ち帰った選手たちが、いつものクラブでどんなプレーを見せるのか。それが今から楽しみだ。