久保建英が運び、上田綺世が決めた――日本対ベネズエラ2-1、同じ45分から欧州へ
日本対ベネズエラ、10人となった終盤に久保建英は90+1分の仕掛けからPKを呼び込み、上田綺世は49分と90+6分に得点した。スペインで出場機会を減らす久保と、今季10戦9得点の上田。VARを挟んだ決勝場面と現地評価から、欧州へ戻る二人の現在地を見つめる。
後半開始、久保建英と上田綺世は並んでピッチへ入った。ひとりは勝ち越しにつながる一歩を前へ運び、もうひとりは二度ネットを揺らした。同じ時間に入った二人なのに、試合が終わると、欧州へ持ち帰るものはずいぶん違って見えた。その違いが、すごく気になった。
2026年9月28日、エディオンピースウイング広島で行われたキリンチャレンジカップで、日本はベネズエラに2-1で逆転勝利した。久保と上田は、ともに後半開始から出場。二人が一緒に試合を動かしていく姿を想像すると、正直、胸が弾んだ。最後の笛のあと、久保には「取り戻す」、上田には「積み重ねる」という別々の言葉が浮かんでいた。
後半開始の5人から、試合の速さが変わって見えた
交代で入った5人が動き始めると、私の目には試合の速さが一段上がったように映った。後半はいきなり失点。思わず「あっ」と声が出た。それでも日本は立ち止まらず、追いつき、もう一度ゴールへ向かうところまでを短い時間に詰め込んだ。
日本は0-0で前半を終え、後半開始から上田綺世、久保建英、伊東純也、田中碧、鈴木彩艶を投入した。
ところが46分、先にゴールを決めたのはベネズエラだった。ケビン・ケルシーに先制され、交代直後の日本はいきなり追う側になった。ここで空気が重くなってもおかしくない。けれど、3分後には上田の得点で1-1。失点を引きずる間もなく、スコアを元へ戻した。
日本サッカー協会(JFA)の試合レポートには、後半から入った選手たちがパスをつなぎ、攻撃のリズムを作ったとある。53分には久保が右側から中央へ入り、ゴールから少し離れた位置からシュートを放った。5人を替えたことだけで試合の流れが変わったとは言えない。それでも、ボールを前へ動かす回数と、次のプレーを選ぶ速さは急に増したように感じた。
伊東も試合後、後半はワンタッチでつなぐプレーや、攻撃の速さを上げるプレーが増えたと振り返っている。46分の失点、49分の同点、53分の久保のシュート。この時間の詰まり方に、「後半はまだ何か起きそう」と一気に引き込まれた。
90+1分、久保が選んだ「点を取りに行く」一歩
10人になった日本で、久保建英が選んだのは時間を使うことではなく、前へ運ぶことだった。90+1分の一歩には、得点やアシストとは違う、今の久保が表れていたように思う。
終盤、渡辺剛が負傷した。日本はすでに交代枠を使い切っていたため、残り時間を10人で戦うことになった。その対応として、85分過ぎには最終ラインを4人にする「4バック」へ変更。伊東純也が右、中村敬斗が左の守備位置に入った。
90+1分、久保はペナルティーエリア右へボールを運び、ヤンヘル・エレーラに足を踏まれて倒れた。けれど笛は鳴らず、プレーは続いた。ベネズエラがそのまま攻め返すと、日本の反則が取られて、今度はベネズエラにPKが与えられた。ところが、映像で判定を確かめるVARと、主審自身が映像を見るオンフィールドレビューが入る。先に久保へのファウルがあったとして、判定は日本のPKへ変わった。
エレーラはレアル・ソシエダでも久保とプレーする同僚だ。久保は、相手が近づいた段階で足を出してくると読んでいたと説明している。一方で、自分は踏まれればPKだと思うものの、現在の基準では意見が分かれる判定だったとも受け止めていた。判定後には、同じクラブのジョン・アランブルとも接触の有無について言葉を交わしたという。
久保が強調したのは、時間を使わず点を取りに行こうと考えたことだった。この先、負ければ終わる方式の大会でも同じ場面は起こり得るから、ひとり少なくても狙う姿勢が大切だと振り返っている。守りの形を崩す怖さがある中で前へ出た判断に、私はいちばん心を動かされた。ただ、本人が示した慎重な見方も忘れず、判定だけを英雄物語にはしたくない。
ベネズエラ戦前、久保はレアル・ソシエダで4試合続けてベンチから始まり、そのうち2試合は出場がなかった。監督はペッレグリーノ・マタラッツォ。スペイン紙『AS』は、厳しい言葉を向けていた。
Sobre Kubo se habla ahora demasiado de su futuro y menos de su fútbol (訳)久保については今、そのサッカーより将来のことが語られすぎている。
— AS(2026年9月25日)
四つのベンチスタートや二つの出番なしだけで、90+1分の一歩まで小さく見たくはない。それでも「将来より目の前のプレーを」という指摘にはうなずいた。久保が広島で示したのも、苦しい状況で目の前の一手を選ぶ姿だったからだ。
49分と90+6分、上田綺世の「9得点」をほどく
今季10試合9得点という数字は、やっぱり目を引く。でもベネズエラ戦で私の中に強く残ったのは、上田綺世が違う形の二つの得点を、後半だけで仕留めたことだった。
49分、左サイドの相馬勇紀からパスを受けた伊東純也がクロスを送ると、上田は相手DFの裏へ抜けて右足で同点ゴールを決めた。上田の試合後の説明がおもしろい。伊東と目が合った時点では、上田はそこへボールを受けに行く動きではなかったという。そこから上田がぎりぎりで動きを変え、相手の逆を取った。その変化を伊東が視野の端で捉え、クロスを送ったという。
ゴール前で右足を振った場面だけではなく、その少し前に上田が考えを変え、伊東が見逃さなかった一瞬に私は惹かれた。短いやり取りなのに、二人の考えがすっと重なったように見えた。
そして90+6分、上田は久保建英が得たPKを決め、日本を2-1へ導いた。4日前のウルグアイ戦にも途中から出場し、1得点1アシスト。リール専門メディア『Le Petit Lillois』は、フェイエノールト、リール、日本代表を合わせ、今季の公式戦10試合で9得点と集計している。リール加入後の内訳は、フランス1部で3試合2得点、欧州チャンピオンズリーグで1試合1得点だった。
Ayase Ueda s’affirme donc comme l’un des hommes en forme du moment et poursuit sa série avec une nouvelle prestation décisive sous le maillot japonais. (訳)上田綺世はいま好調な選手の一人として存在感を強め、日本代表でまた決定的な働きを見せながら得点を重ねている。
— Le Petit Lillois(2026年9月28日)
「好調」という評価には、私もうなずく。ただ、9という数字を次の得点の根拠にはしたくない。頼もしさを感じたのは、とっさに動きを変えてクロスへ合わせた49分と、長い映像確認のあとに落ち着いてPKを蹴った90+6分という、性質の違う仕事を終えたことだ。
9月20日のニース戦では、上田が先発し、64分から入ったオリヴィエ・ジルーと、前線にFWを2人置く「2トップ」を初めて組んだ。上田は79分に今季のリーグ戦2点目を記録。ダビデ・アンチェロッティ監督は試合後、二人は互いの特長を補い合え、追いかける展開では連係が効果的になるという考えを示した。ただ、この一度で今後の形まで固まったのかは、まだ見えない。二人が並ぶとき、上田の動きがどう変わるのかが気になる。
二つの手応えを、それぞれのクラブへ
異なる手応えを胸に、それぞれのクラブへ戻る二人を対比したイメージ。AI生成イラスト(実際の試合場面ではありません)。
この夜だけでクラブの序列まで決まるわけではない。けれど、久保が持ち帰るのは、ひとり少ない場面でも時間を使わず前へ出た判断だ。上田が持ち帰るのは、味方を見ながら直前に動きを変え、異なる形で二つの得点を決めた器用さだ。二人の仕事が一本の線でつながった90+1分から90+6分は、それぞれのクラブへ向かうための手応えになったように思う。
久保は取り戻そうとしていて、上田は積み重ねている。抱えている課題も、クラブで求められる役割も同じではない。次に見たいのは、久保が普段の競争の中でも迷わず前を選ぶ瞬間と、上田が新しい組み合わせの中でゴール前の動きを変える瞬間だ。広島で生まれた二つの一歩が、欧州でどんなプレーにつながるのか。今度はクラブの試合で見届けようと思う。