神谷千菜とリ・ソンア、同じクラブからアジア大会決勝へ――なでしこ対北朝鮮、3連覇を懸ける夜
雨の韓国戦は前半0-0。神谷千菜の2得点が生まれる前に、何が変わっていたのでしょうか。4-1で終わった2023年の北朝鮮戦でも、日本は長く押し込まれながら66分から6分間で3点を奪いました。二つの試合をたどり、10月2日の決勝で目を離したくない局面を考えます。
5試合連続でゴールを決めている神谷千菜選手。10月2日のアジア大会決勝で、その相手となる北朝鮮代表には、サンフレッチェ広島レジーナで一緒にプレーするリ・ソンア(李誠雅)選手がいます。普段は同じクラブでボールを追う二人が、今度はそれぞれの国を背負って向き合う。その光景を思うと、得点記録以上に胸が動きました。
神谷選手は韓国戦後、リ・ソンア選手と戦えることへの喜びと、勝って喜びたいという思いを語っています。日本は10月2日19時30分、小笠山総合運動公園エコパスタジアムで北朝鮮代表との決勝に臨みます。日本はここまで26得点無失点。3連覇への期待はもちろん大きいです。ただ、この数字だけで簡単な試合だとは思えません。韓国戦で得点が動くまでの時間と、4-1でも苦しかった前回決勝をたどりながら、この一戦で見届けたいものを考えます。
26得点0失点、その数字の外側
数字だけを見れば、なでしこジャパンは迷いなく決勝まで進んできたように映ります。でも、フィリピン戦の後半と韓国戦の前半を振り返ると、スコアの差ほど楽な道のりではなかったと感じます。
日本はタイに8-0、ベトナムに8-0、チャイニーズ・タイペイに4-0、フィリピンに4-0、韓国に2-0で勝ちました。初戦のタイ戦では、中嶋淑乃選手と宝田沙織選手がそれぞれ3得点。神谷千菜選手も代表での初ゴールを決めました。いろいろな選手が得点に関わりながら、5試合を無失点で終えたことは、素直にうれしくなる結果です。
ただ、フィリピン戦は前半に4点を奪ったあと、後半は無得点でした。試合全体では22本のシュートを放ちましたが、後半の45分に追加点は生まれていません。狩野倫久監督も試合後、後半はパスや走り出すタイミングが合わず、攻撃がサイドからゴール前へ入れるボールに偏ったと振り返っています。準決勝の韓国戦も、前半は0-0。後半に2点を奪って勝ちましたが、試合が動くまでには我慢の時間がありました。
だからこそ、26-0は決勝の内容まで教えてくれる数字ではありません。前半と後半で違う顔を見せた二つの試合には、合計得点だけでは拾えない迷いや修正がありました。勝ったあとにも攻撃のずれを率直に語る監督の姿からは、結果だけで満足せず、次の試合へ進もうとする落ち着きが伝わってきました。
0-0の54分までと、神谷千菜の2得点
試合が動かない時間と、話し合いから道が開ける感覚を対比したイメージ。AI生成イラスト(実際の試合場面ではありません)。
韓国戦で心に残ったのは、神谷千菜選手の2得点だけではありません。雨の中で前半を0-0で終えたあと、ハーフタイムの確認を後半の変化につなげた。その順序まで含めて、印象に残る勝利でした。
朝から降っていた雨は試合中も続き、両チームともボールを思うように扱えない場面がありました。日本も得点を奪えないまま時間が進みます。それでも前半終了間際、神谷選手が左足で放ったボレーシュートはポストへ。0-0ではありましたが、ゴールは遠くないようにも見えました。
日本は後半の開始から、水野蕗奈選手を右の守備に入れ、浜田芽来選手を前へ移します。そして54分、上野真実選手が早めにゴール前へ送ったボールを、神谷選手が頭で決めました。さらに63分には、上野選手と成宮唯選手が前から相手を追い込んでパスミスを誘います。こぼれたボールを神谷選手が左足で決め、2-0としました。
狩野倫久監督は試合後、ハーフタイムに相手を追い込むタイミングと、どこでボールを奪うかを全員で確かめたと説明しています。前半をただ「うまくいかなかった時間」と片づけるのではなく、配置を変え、守り方をそろえ直した先に二つのゴールが生まれた。前半の確認が、後半の変化につながったことが分かります。
神谷選手は代表デビューから5試合連続得点。タイ戦で1点、ベトナム戦で2点、チャイニーズ・タイペイ戦とフィリピン戦で各1点、韓国戦で2点の計7得点です。それでも本人が振り返ったのは、相手に抑えられ、ボールを受けて攻撃を始める役目を十分に果たせなかったことでした。2得点の華やかさのすぐ隣で、自分に足りなかったプレーを見つめる。その言葉まで含めて、神谷選手の韓国戦だったのでしょう。
4-1でも苦しかった2023年決勝
前回大会の4-1は、最初から最後まで日本が押していた試合ではありません。北朝鮮に攻め込まれ、前の選手までボールをつなげない時間が続く中、一つのコーナーキックを境に試合が大きく動きました。66分から72分までの6分間に3点。その急な変化までが、前回決勝を語るうえで欠かせない記憶です。
2023年10月6日、杭州大会の決勝で日本は北朝鮮に4-1で勝ち、2大会連続の優勝を決めました。ただ、立ち上がりから日本ゴールへ迫ったのは北朝鮮でした。日本は守る時間が続きながらも、10分に中嶋淑乃選手がチーム最初のシュートを決めて先制します。その後は再び攻められ、39分に追いつかれました。
1-1で迎えた後半も、日本は前の選手までボールを届け、そこで攻撃を落ち着かせることができません。流れを変えたのは66分の左コーナーキックでした。谷川萌々子選手が蹴ったボールを、大澤春花選手が頭で決めて2-1。69分には谷川選手、72分には千葉玲海菜選手が続き、わずか6分で点差が3点に広がりました。
今回の登録メンバーでは、浅野菜摘選手、後藤若葉選手、塩越柚歩選手、中嶋淑乃選手、上野真実選手、榊原琴乃選手、大場朱羽選手が、あの決勝のメンバー表にも名前を連ねていました。同じ相手との決勝を知る選手がいることも、二つの大会をつなぐ一つの線です。
私は4-1という結果を強く覚えていましたが、試合をたどり直すと、安心して見ていられない時間の方がずっと長かったと気づきました。大きな点差が残っていても、北朝鮮戦の難しさは小さくなりません。その一方で、苦しい流れが一つのコーナーキックから一変したことも、忘れられない場面です。試合は、ほんの小さなきっかけで急に違う顔を見せる。その記憶を持って、今回の決勝を迎えます。
同じクラブの二人が立つ決勝へ
3連覇を懸けた決勝で目を向けるのは、神谷千菜選手の連続得点が伸びるかどうかだけではありません。得点が生まれない時間や相手に押し込まれる時間に、選手たちは何を話し、どんな答えを出すのか。記録の陰にあるそのやり取りへ、目を凝らします。
神谷選手とリ・ソンア選手は、いまも同じサンフレッチェ広島レジーナのFWです。この決勝では、それぞれ日本と北朝鮮の代表として向き合います。韓国戦後に自分の課題も口にした神谷選手は、リ・ソンア選手との対戦を楽しみにしているとも語りました。
注目する場面は三つです。一つ目は、韓国戦のように前半のスコアが動かない時。早い得点を待つだけでなく、選手同士が何を確かめ、後半へどうつなぐのかに目を向けます。
二つ目は、2023年決勝のように押し込まれた時です。苦しい時間が続いても、一つのコーナーキックや選手の入れ替えから試合の景色は変わります。チーム全体で小さな転機をつかめるか。そんな場面が来たら、息をするのも忘れてしまいそうです。
三つ目は、神谷選手とリ・ソンア選手が、それぞれの代表で向き合う姿。同じクラブで磨き合う二人が金メダルを争うなんて、なんだか誇らしいです。どちらかを物語の敵役に置く必要はありません。二人が積み重ねてきた時間も、この決勝につながっています。
日本は2018年大会で中国に1-0で勝って優勝し、2023年大会でも頂点に立ちました。今回は3大会連続の優勝が懸かります。けれど私にとっては、無失点や連続得点の結果だけで語る夜ではありません。難しい状況で誰が声をかけ、どんな一手で前へ進むのか。なかでも、前半が動かない時に選手同士で答えを探し、後半へつなぐ場面が一番の注目です。
10月2日のエコパ。試合を終えた神谷選手とリ・ソンア選手は、どんな顔で言葉を交わすのでしょう。最後の笛のあとに訪れるその場面まで、見届けたいです。