鈴木彩艶、11分の連続セーブと67分のロングキック――トッテナム対アストン・ヴィラ2-3雑感
敵地で先行しながら終盤に2点を返された一戦。ゴール前で耐えた時間と、味方を走らせた一本のキック。アストン・ヴィラの守護神として90分立ち続けた鈴木彩艶の仕事を、BBCの週間ベストイレブン入りやスパーズ指揮官の言葉も交えつつ、スコアに残らない場面まで振り返ります。
9月19日のプレミアリーグ第5節、アストン・ヴィラは敵地でトッテナムを3-2で下しました。先発して最後までゴールを守った鈴木彩艶を見ていて、私の中に残ったのは「好セーブを何本見せたか」だけではありません。手で試合をつなぎ、足で得点への道をひらく。その二つが同じ試合の中できれいにつながったことが、なんだかとても頼もしく見えました。
11分、二度続けて立ちはだかった
いちばん息を止めたのは11分です。サヴィーニョの一度目のシュートを鈴木が体で止め、続けて飛んできた二本目はバーの上へ押し出しました。19分には角度のないところから放たれたアーチー・グレイのシュートにも対応し、23分、コーナーキックの流れから来たサヴィーニョのボレーも弾き出します。立て続けに危ない場面が来るのに、ひとつ前のセーブを引きずらず、次のボールへ向き直る姿が印象的でした。
ヴィラは45+4分、ヨハン・マンザンビのゴールで先制します。前半の景色だけを切り取れば、トッテナムに押し込まれる時間はかなり苦しかった。それでも無失点のまま先に一点を持って帰れたことで、試合の表情がすっと変わったように感じました。
止める手と、始める足
止める仕事と攻撃を始める仕事がつながる感覚を表したイメージ。AI生成イラスト(実際の試合場面ではありません)。
67分、鈴木が前線へ蹴った長いボールをマンザンビがつなぎ、ニコラス・ジャクソンがゴール。GKの配球が、そのままヴィラの2点目へ続きました。11分の連続セーブが「ここで終わらせる」仕事なら、この一蹴りは「ここから始める」仕事。守ることと攻めることが一本の線になった瞬間に、私はいちばんわくわくしました。
“We knew before the game that Suzuki, the goalkeeper, is very good in the long ball.” (訳)「試合前から、GKの鈴木がロングボールをとても得意としていることは分かっていた」
— Roberto De Zerbi(トッテナム監督)、Tottenham Hotspur(2026年9月19日)
相手も警戒していた形だったと知ると、あの一蹴りの重みがさらに増します。奇襲というより、分かっていても対応を迫られる武器だったのでしょう。長いキックそのものの美しさだけでなく、味方が触れられる場所へ届き、次のプレーへ渡ったところまでが気持ちよかったです。
3-0から3-2、それでも薄れなかった存在感
エミリアーノ・ブエンディアが79分に3点目を決めたあと、トッテナムは86分にコナー・ギャラガー、90+8分にヤン・パウル・ファン・ヘッケが得点しました。GKとしては、最後に二つの失点が残ったことはすっきりしないところかもしれません。見ている私も、終了間際はかなりそわそわしました。
それでも、この日の鈴木の仕事はスコアの「2失点」だけでは見えません。立ち上がりの連続セーブと、追加点へつながった配球。その両方があったからこそ、3-2という試合の形ができたのだと思います。
翌20日には、BBCでトロイ・ディーニーが選ぶプレミアリーグの週間ベストイレブンにも入りました。華やかな選出ですが、私は賞の名前よりも、11分と67分という二つの時間を覚えていたいです。ピンチを閉じる冷静さと、遠くの味方へ試合を託す大胆さ。相反するように見える二つが、鈴木の中では自然に同居しているように見えました。
日本代表でも見たくなる一蹴り
鈴木は、9月24日のウルグアイ戦と28日のベネズエラ戦(いずれもキリンチャレンジカップ)に臨む日本代表メンバーにも選ばれています。クラブと代表では周りの選手も試合の流れも変わります。それでも、ゴール前で落ち着き、ボールを持てば遠くまで景色を変えるプレーを、今度は日本代表の試合でも見られたらうれしいです。
トッテナム戦で心に残ったのは、派手な一場面だけではなく、守備から攻撃へ切り替わる境目に鈴木がいたことでした。GKを「最後に守る人」とだけ呼ぶには、あの67分のキックはあまりにも前向きでした。